2021-11-27 記憶と∞mプール

一番星が綺麗だった。空気は尖って町全体が呼吸していた。飛行機のライトが道しるべみたいで、それを追いかけて歩く。ブレーキライトで赤く染まった18:30の渋滞と、明日のみえない詰まった日々を重ね合わせて目を閉じる。一度閉じた目を開けたら、景色はもっと寂しくなっているような気がして、なかなか開けることができなかった。冬はあっという間に暗くなる。みえないから怖いのに、みたくもないのはどういうことだ。

小学校のプールの授業で1人だけ印鑑を忘れたみたいな、そんな無力感に襲われる。教室にクーラーはつかなくて、体操座りで夏を眺める。住宅街を横切ったとき、楽しそうにテレビをみている家族の声が聞こえた。市民プールに行っても多分何も意味はなくて、でも時々、そういうことをしそうになる。何もは言い過ぎたかも。僕はずっと同じ夢をみている。夢には空気が冷凍保存されていて、ゆっくり脳みそに溶けていく。夢の話はやめようと思った。僕たちがみるのは今だけで充分だと思う。

充分って難しい言葉だ。もしも充分が存在するなら、僕らが悲しい意味ってなんだ。でも簡単な言葉ってあるのかな。もしも本当の言葉が存在するなら、言葉全てが崩壊したあと、なんとか意思を伝えるために出したはじめの呻き声だけだ。それでも言葉がないと生きていけないから、言葉がないと苦しくなるから、本当を目指して言葉を使う。道しるべみたいな飛行機を、追いかけなくても僕らは進みたい。

僕は絶対に負けたくなくて、だからしっかり前を向く。気付けみたいな冬の風と、頭痛薬みたいな月の光で、ようやくゆっくり息をする。僕たちはしっかりやれている。僕もきみも大丈夫だよ。大丈夫かな。大丈夫だよ。最後に大きく町を眺めたら、振り返らずにお家に帰る。